農学部 食料生産環境学科
教授 小出章二
生鮮食品保存科学
岩手大学農学部小出章二教授らの研究グループは、-5℃でカット青果物(カットキャベツ)を凍らせずに12日間保存することで、腐敗菌の増殖が抑制できることを報告しました。
本研究は、カット青果物を過冷却保存(-5℃)できれば、長期に亘り腐敗が進行しないことを示唆するもので「フードロス削減に貢献する新規技術」としての期待が高まります。
本研究は、Springer Natureが出版する食品科学分野に関する学術雑誌「Food and Bioprocess Technology」で公開されました。
一般にカット青果物は、温度が低いほど生化学反応に基づく変質を抑えることが可能です。また腐敗に関与する低温微生物は10℃以下の温度帯では温度が低いほど増殖が抑制されます。従って、カット青果物の保存は温度が低ければ低いほど望しいのですが、氷点以下の温度では一旦凍結すると解凍した後に著しい物性変化が生じ、またドリップ発生を引き起こします。したがって、青果物の品質保持のためには、保存温度を凍結点よりも高く、かつ、できるだけ低い温度にすることが重要でした。
これに対して私たちは、常識外ではありましたが、過冷却現象を用いてカット青果物を凍結点よりもより低温で長期保存する「過冷却保存」に関する研究を行ってきました。氷点下での測定は困難を伴いますが、カット青果物を凍らせずに保存すると、以下1~6の現象が生じることが推測されます。本研究で紹介する内容は、以下1~5に関して科学的データを示したものです。
フィルム包装したカットキャベツに12日間の過冷却保存(-5℃)を適用し、微生物的品質および理化学的特性について0℃および5℃で冷蔵保存した試料と比較しました。その結果、微生物学的品質について、5℃試料では12日間で一般生菌数が増加し、0℃試料においても僅かに増加しましたが、過冷却した試料では減少傾向となりました。
また16S rRNAメタゲノム解析の結果、過冷却試料では細菌数および細菌叢は0日目からほとんど変化しなかったことが示唆されました。一方で5℃試料ではChryseobacterium属の相対存在比の増加が顕著にみられ、相対的にPseudomonas属やAcinetobacter属の相対存在比が小さくなる傾向が得られました。これにより5℃試料ではChryseobacterium属を代表とする好冷菌が増殖したことが推察されます。
理化学的特性については、過冷却試料のカット断面の色彩変化は5℃試料および0℃試料と比べ著しく抑制され、L-アスコルビン酸含有量は0℃試料および過冷却試料では5℃試料よりも有意または有意傾向で変化が抑制されることが分かりました。
これらの結果から、過冷却保存はカットキャベツの腐敗防止や日持ち向上に有効であることが示されました。
世界では食料生産量の3分の1に当たる約13億トンの食料が毎年廃棄されています。本研究は過冷却保存におけるカット青果物の生物的(微生物学的)?物理的?化学的現象を明らかにしたものであり、そのなかでも腐敗菌の抑制効果は腐敗抑制の観点から特筆すべき成果であり、今後の青果物の流通?保存工程におけるフードロス削減技術として期待されます。
本成果は、水産物や畜産物のチルド温度帯での保存への波及効果も高く、コールドチェーンの新たな局面を切り拓くものであり、カット青果物に対して殆ど使われてこなかった温度帯の利活用を開拓するものと考えられます。
題目:Supercooled storage suppresses the microbial population and color changes in fresh-cut cabbage
著者:Rei Osuga, Shoji Koide, Ryunosuke Sugisawa, Miwa Yamada, Takahiro Orikasa, Matsuo Uemura
雑誌名:Food and Bioprocess Technology
公表日:published online 24 September 2024
DOI:
https://doi.org/10.1007/s11947-024-03607-6
本研究は、以下の研究事業の成果の一部として得られました。
?文部科学省科学研究費補助金?基盤研究(C)「生鮮青果物の新たな過冷却保存法の確立:長期品質保持?環境負荷低減を目指して」研究代表者:小出章二
農学部 食料生産環境学科
教授 小出章二
shojides@iwate-u.ac.jp